前日本銀行総裁速水優氏は、1947年東京商科大学(現在の一橋大学)を卒業後、直ちに日本銀行に入行、特に国際金融方面で活躍され、最後には日銀理事を務められた。1981年以来日商岩井株式会社の取締役、社長、会長を務め、また経済同友会代表幹事として財界を代表し、財界に対する指導的発言者となられた。前任者突然の辞任後、各界大方の注目の中で新日銀法初代の日銀総裁として就任され、1998年から2003年まで、日本経済の困難な時期に、堅実にして適切な施策をもって金融行政の信頼を守り通された。その功績は、この方面の専門家である著名な評論家をして、日銀121年の歴史において「速水氏ほど未曾有の金融政策措置を実施した総裁はいなかった」との最高の賛辞をもって評価せしめたほどであった。こうして新日銀法のもとでの最初の日銀総裁として速水氏がその重責を立派に全うされたことは、今後の後継者にとって職務遂行の模範であり基準となるものであって、それは日本の将来にとって大きな貢献であったといわなければならない。
歴史に残るこのような業績の根底には、卓越した識見と豊かな経験はもとより、人格形成の初期から現在に至るまで一貫して揺るぎないキリスト教信仰があったことは、日本国内のみならず外国にまで広く知られ、速水氏に対する信頼は絶大なものとなった。速水氏は、日本基督教団阿佐ヶ谷教会の会員であり、最近までは信徒総代を務めておられた。そのキリスト教的背景にあって速水家と聖学院との間にある美しいゆかりは、聖学院にとって大きな喜びである。国会の場でも筋の通った発言により軽率な金融政策を戒め、また余人のなし得ない果断な金融政策を断行することなど、その卓越せる指導性の背後にキリスト教信仰の支えがあったことは、公にされた随筆集『土の器』や『誠実―ビジネス界を翔る人の聖書の言葉』などの著書に現れている。
速水氏が、国際金融面の実務家であるばかりか、優れた学者であり、また論客であることは、『変動相場制10年―海図なき航海』とか『円が尊敬される日』などの著作によって明らかであり、また日銀総裁就任の前までは、わが聖学院大学大学院の客員教授として連続講義を公開し、広くその見識と経験とを世に分かち与えられたことにも示されている。
聖学院大学並びに大学院は、本学院と速水優氏との間に神の与えたもうた交わりを感謝し、同氏のキリスト者としての謙虚にして清廉なる人格と、日本国家及び国際金融関係に残された顕著にして卓越せる貢献に深甚なる敬意を表し、ここに聖学院大学名誉法学博士(LL.D)の称号を贈呈して、その功績を顕彰するものである。
聖学院大学大学院
政治政策学研究科長 大木雅夫(法学博士)
アメリカ・ヨーロッパ文化学研究科長 古屋安雄(神学博士)
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